本研究では、脳内のコレステロール恒常性維持メカニズムをトランスポーターの観点から明らかにすることを目的に、ABC蛋白質の生理機能および分子メカニズムを中心に研究を行った。 ABCA1のC末端にThrombin切断部位とヒスチジンタグを融合したタンパク質をバキュロウイルスベクターに組み込み、Sf9細胞に感染させた。発現量は、感染開始後48時間から72時間で最大となり、全膜タンパク質の約1%程度であった。膜画分を0.8%(w/v)のドデシルマルトシドによって可溶化し、可溶性画分からNi-NTAアガロースによってABCA1を精製した。精製純度は約50%であった。さらに限外濾過法を用いて濃縮後に陰イオン交換クロマトグラフィーあるいはレクチンカラムを用いてさらに精製を行った結果、最終的にABCA1を約90%の純度で精製できた。次に、精製ABCA1のATP加水分解活性を測定した。その結果、ABCA1は、可溶化状態でATP加水分解活性を示し、大豆脂質の添加によって約2倍に増加した。脂質排出活性が損なわれるATP結合ドメイン変異体(K939M)ではATP加水分解活性を示さず、また脂質による誘導も見られなかった。さらに、合成脂質だけで構築したリポソームに再構成した結果、ABCA1はホスファチジルコリンを多く含んだリポソームに再構成すると最も強くATP加水分解活性が誘導されることが明らかになった。ホスファチジルセリンやホスファチジルエタノールアミンを含むリポソームで再構成すると活性が減少した。また、ABCA1と最もアミノ酸配列相同性が高いABCA7がABCA1と同様のリン脂質排出活性を持つにもかかわらず、弱いコレステロール排出活性しかもたないことを明らかにした。また、新たに作成したヒトABCA7に対する抗体を用いた組織染色の結果、自己免疫疾患であるシェーグレン症候群の唾液腺内に陽性細胞が認められた。シェーグレン症候の患者18名中10名の唾液腺にABCA7陽性形質細胞が浸潤しており、ドライマウス、ドライアイなどの症状に関与している可能性があり興味深い。
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