本研究では、脳内のコレステロール恒常性維持メカニズムをトランスポーターの観点から明らかにすることを目的に、脳内で発現しているABCA1とABCG1によるコレステロール輸送が細胞膜中のスフィンゴミエリンの濃度変化によってどのような影響を受けるか検討した。そのために、スフィンゴミエリン合成の変異株を用いた。ABCA1によるコレステロール排出はスフィンゴミエリン合成変異株において有意に(約1.5倍)高いことがわかった。また、スフィンゴミエリンを培地に添加し細胞膜中のスフィンゴミエリン含量を増加させるとHDL産生量は減少した。つまり、ABCA1を介したapoA-Iへのリン脂質とコレステロールの排出量と細胞膜中のスフィンゴミエリン量は反比例することがわかった。次に、ABCG1による脂質排出に対して、細胞膜のスフィンゴミエリン含量が影響するかどうかを検討した。その結果、ABCA1の場合とは反対に、細胞膜中のスフィンゴミエリン含量を低下させるとABCG1によるコレステロール排出が減少すること、細胞外からスフィンゴミエリンを加えるとHDLを受容体としたコレステロール排出が促進されることがわかった。細胞膜上の局在を調べると、ABCA1がTritonX-100可溶性画分に回収されるのに対し、ABCG1は不溶性画分から主に回収されることがわかった。以上の結果は、ABCA1が非ラフトドメインからフォスファチジルコリンとコレステロールをapoA-Iに受け渡すのに対し、ABCG1はラフトドメインあるいはその周辺からスフィンゴミエリンとコレステロールを細胞外へ排出することが明らかになった。脳内のスフィンゴミエリン濃度は高く、スフィンゴミエリンがコレステロール恒常性に重要であることが示唆された。
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