本研究では、油脂が口腔内で化学受容されることを明らかにする目的で、カルシウムイメージング法を用いて味蕾細胞と脂肪との相互作用を明らかにするとともに、脂肪に対する執着の成立にエネルギー情報が必要であることを示す動物行動科学的な観察を行った。 ラットやマウスの有郭乳頭から取り出した味蕾細胞に蛍光カルシウム指示薬Fluo-3を導入する条件を探索し最適条件を決定した。オレイン酸、リノール酸、リノレン酸に対する味蕾細胞のカルシウム動員の反応を検出した。味蕾細胞が脂肪酸と反応することを示す初めての結果と言える。 動物行動学的には、非消化性の脂肪として脂肪酸のソルビトールエステルを用い、市販のコーン油と比較した実験では短時間の2瓶選択において、脂肪酸のソルビトールエステルはコーン油に匹敵する嗜好性を示したが、30分経過したところで低下しはじめ以後はコーン油に比べて非常に低い嗜好性を示した。長期の嗜好が維持されない脂肪酸ソルビトールエステルに対してCPP法による強化効果(報酬効果)が観察されないことを示した。コーン油のような油脂に対する執着は、高エネルギーを摂取し続けたいという本能的な行動であると考えられる。一方、胃内に投与したコーン油と、口腔内で好ましい刺激を有する脂肪酸ソルビトールエステルとの組み合わせは、CPP法で報酬効果が観察された。さらに、CPP法によって、コーン油を投与したラットにベータ酸化の阻害剤であるメルカプト酢酸を投与すると、摂取した脂肪の酸化が抑制され、コーン油に対する強化効果が消失した。口腔内刺激に引き続いて摂取後に生じるエネルギー信号が強化効果の成立に必要であることを示している。
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