動脈硬化病巣形成においてはマクロファージの泡沫化に伴うサイトカイン・ケモカインの生成・分泌が極めて重要な役割を担っていることは、広く知られている。これにはコレステロールが内因性、外因性因子として機能していることも広く認知されている。しかしながら高脂血漿状態が本病態をはじめとする生活習慣病の発症を特に増悪化するにもかかわらず、その機構は未だ明らかではない。また、脂肪組織や肝臓では脂肪の過重な負荷が、代謝状態を悪化させ生活習慣病発症のリスクを著明に増大させることが知られているにもかかわらず、その機構は未だ明らかでない。本研究では、これらの食事脂肪の標的臓器・細胞における病態発症リスクの増大には、それらの臓器・細胞において食事脂肪が病態発症のリスクを増大あるいは減少させる化学因子の生成を変化させるためである、と考えた。化学因子としては、臓器間や細胞相互間で作用するサイトカインやケモカインが有力な候補として考えられた。 本研究では脂肪酸の標的臓器・細胞において、このようなシグナル素子としての脂肪酸を受容し、サイトカイン・ケモカインの生成・分泌を促す細胞内情報伝達システムやフィードバック調節など微細な制御機構に関わる情報伝達システム間のクロストークについて脂肪酸の標的臓器・細胞であるマクロファージおよび脂肪組織において細胞生化学的手法を用いて検討した。その結果、脂肪摂取や肥満状態により制御される新規CCケモカインであるロイコタクチン-1およびMCP-1の生成・分泌が脂質代謝およびエネルギー代謝不全に関連した生活習慣病、特に動脈硬化病巣の進展に重要であることをヒトおよび実験動物を用いて明らかにした。
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