味物質には、味細胞の細胞膜上に受容体という特殊なタンパク質によって感知されるものと、チャネルや細胞膜に直接働きかけるものがある。本研究では、これまで蓄積した生理学的研究を発展させて、味細胞内の情報変換カスケードの構築を目的として、初年度では以下のことを行った。 実験動物-ヒトと類似の嗜好を示す系統のC57BL/6Jms SLcマウスを用いた。このマウスはうま味において、1mM以上のグルタミン酸を感知し、またグルタミン酸と核酸の相乗作用を感じることができる。この閾値や嗜好性もヒトと似ている。苦味に関しても、行動学的にデナトニウム、キニーネなど薬品・化学薬品系の苦味物質を全面的に忌避する。 苦味-代表的な苦味物質のキニーネ、デナトニウムを用いた。キニーネ応答は受容体を介さずに直接Gタンパク質を活性化してセカンドメッセンジャーを増減させることを示唆していた。前研究で、デナトニウムは低濃度と高濃度で異なる情報変換系を利用することも示唆した。それを詳細に調べた結果、デナトニウムでは、Gタンパク質系を介する経路と介さない経路が存在し、介さない経路には細胞内カルシウムストアに情報が送られていることを明らかにした。 うま味-相乗効果を示すグルタミン酸とイノシン酸を用いて、細胞内カルシウムストアの関与を調べた。その結果、グルタミン酸応答には細胞内カルシウムストアからのカルシウムの放出が見られるが、相乗作用による増強された応答には、細胞外カルシウムの流入も生じていること可能性が浮上した。
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