研究概要 |
腸管粘膜は経口摂取した食品成分のみならず,種々の病原微生物や腸内細菌などに常時暴露されているが,腸内細菌やプロバイオティクスなどの食品微生物は生体から排除される強い免疫応答は誘導されにくいと考えられている.しかし,その作用機序は不明であり,本研究は,腸管免疫系における腸内細菌やプロバイオティクスの免疫学的な作用機序を分子生物学的な視点で明らかにし,感染防御やアレルギー発症の予防・治療のための基礎的な知見を得ることを目的とした.Bifidobacterium pseudocatenulatum7041菌体破砕物(Bifidobacterium immunomodulator, BIM)をマウスに7日間連続経口投与するとパイエル板細胞においてIgA産生応答が誘導されるが,このとき,パイエル板Thy1.2陰性細胞(T細胞除去細胞)のIL-12産生は顕著に亢進した.さらに,この応答はToll様受容体(TLR)を介して抗原提示細胞に対する免疫応答が感作されているが,小腸パイエル板においてはナイーブなT細胞マーカーのCD4^+CD45RB^<high>細胞が有意に増加する特徴が明らかとなった.BIMの経口投与によって小腸パイエル板細胞のIgA産生誘導はサイトカイン産生を介して活性化されたが,腸内容物中に分泌される総IgA量には有意な差は認められなかった.したがって,病原細菌等に感染していない通常のマウスにおいてはBIMの摂取がパイエル板細胞を活性化して感染防御能を高めるが,プロバイオティクス菌体を排除する強い応答は誘導されにくいことが推察された.さらに,卵白オボアルブミン(OVA)特異的T細胞受容体トランスジェニックマウスに卵白配合飼料を摂取させて血中IgE抗体価を上昇させる実験条件において,BIMの経口摂取は血中IgE抗体価の上昇を抑制し,脾臓細胞におけるIFN-γ産生を亢進させたことから,BIMには全身免疫系にはTh1型の免疫応答を誘導し,食品アレルギーの発症を予防する可能性が示唆された.したがって,BIMには抗感染,抗アレルギーのいずれに対しても機能する可能性が期待される.
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