本研究プロジェクトでは、マイクロサテライトマーカーを用いた分子生態遺伝学的手法により、絶滅危惧種シデコブシの保全を図るための基礎的な情報である花粉を介した遺伝子流動と近交弱勢の程度を明らかにすることを目的とし、以下の研究成果を得た。 1.サイズが大きく、明るい環境に生育している個体ほど、開花量が多く、早くかつ長期間咲く傾向があった。また、開花量が多いほど、ポリネーターの誘引効果が高まり、雌性繁殖成功度が高まること、そして、それは隣花受粉のマイナス効果を上回ることが示された。 2.クローン成長(萌芽・伏条)により新しい幹が作られており、一般に、個体は少数の大きな幹と多数の小さな幹で構成されていた。サイズの小さな個体では集団内に遺伝的構造があり、距離の制限された種子散布があることが示された。また、サイズの小さな個体では、遺伝的構造化や近親交配によりホモ接合体の超過があり、成長するとともに遺伝的構造の消失や近交弱勢によりホモ接合体頻度が減少することが示された。 3.メタ集団内集団間の遺伝的分化程度は核DNAが葉緑体DNAの半分以下であった。したがって、種子による遺伝子流動だけでなく花粉による遺伝子流動も集団間分化を低下させていることがわかった。種子の父性解析により、現在の花粉流動は距離に強く制限されていることが明らかになった。ほとんどの花粉流動は集団内にとどまっているが、集団外からの花粉流動が低頻度で生じており、メタ集団内の集団は遺伝子流動で結びついていることが実際に確かめられた。 4.小集団では、花粉不足、自殖、遺伝的浮動と近親交配による遺伝的劣化によって種子生産量が著しく減少し、絶滅リスクが高められていることが示された。
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