研究概要 |
ミズナラ(Quercus mongolica var.crispula)について日本列島全域にわたるサンプルを採集し、葉緑体DNAの塩基配列の変異の分布からこれらが日本列島の中央部、糸魚川-静岡構造線を境に南北の2つのグループからなることを明らかにしてきた。本研究ではさらに韓国、中国(遼寧省およびハルビン)、ロシア(サハリンおよび沿海州)から採集したサンプルの解析を行い、ハプロタイプの共通性から、日本の南北集団のそれぞれが南(朝鮮半島)と北(サハリン)の陸橋を経由して氷河期に列島に移入したものであることを示した。この結果にもとづいて、本研究では遺伝子レベルで異なる環境への適応の事実を明らかにすることを計画した。日本列島各地の16集団71個体についてメチオニンシンターゼ遺伝子およびヨーロッパナラで公表されているESTマーカーのうちフェノロジーに関与するマーカー6種についてサブクローニングを行い配列決定による変異の解析を行った。メチオニンシンターゼ遺伝子については全長1383bpの配列を決定し、このうちエキソン部分で同義置換11および非同義置換9を含む20の多型サイトを検出した。エキソン部分の変異について、π_a/π_s=2.48>1となり、自然選択が働いている可能性が示唆された。このうち第2と第3エキソンにある,5つのSNPsに関してサンプル数を増やして(19集団222個体)集団の緯度毎に頻度を調べたところ、3つのSNPsで緯度との有意な相関(cline)が見出された。他の解析結果も合わせて北方集団に適応的な選択が働いた可能性が示された。6つのESTマーカーでは、Clone58 (Auxin repressed gene)のSNPsに有意なclineが見つかった。
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