研究概要 |
神吉盆地および琵琶湖高島沖の堆積物における約12万年前の最終間氷期以降について細かい分析間隔で花粉分析を行い,高い時間分解能での植生変遷を解明した。さらに,火山灰層や放射性炭素年代を基にして,これらの結果および近畿地方の日本海側に位置する黒田低地の花粉分析結果(Takahara & Kitagawa 2000)との比較を行い,近畿地方における植生変遷を明らかにした。また,気候変動との対比に関して,火山灰降灰年代と放射性炭素年代を基に,氷期-間氷期変動を示すSPECMAPの酸素同位体曲線(Martinson et al.1987)と本研究結果との対比を行った。さらに,日本周辺での気候変動との対応関係を明らかにするため,冬季東アジアモンスーン変動(Xiao et al.1997)との対比を行った。 1)135000 yr BP頃の氷期(MIS-6)からの急激な温暖化により,マツ科針葉樹林が減少し,落葉広葉樹林が拡大した。 2)現在と同程度に温暖であった120000 yr BP頃の最終間氷期(MIS-5e)には,落葉広葉樹林にアカガシ亜属を交える植生が広がっていた。さらに,スギの増加も認められた。 3)やや温暖〜冷涼な120000〜70000 yr BP頃(MIS-5d〜5a)には,スギの優勢な植生が広がった。この時期,冬季モンスーンが強い時期にはスギが優勢となり,弱い時期にはスギとともに落葉広葉樹が増加した。 4)70000〜60000 yr BP頃(MIS-4)には寒冷化にともなって,スギが減少し,これにかわってマツ科針葉樹林が拡大した。 5)60000〜30000 yr BP頃(MIS-3)は冷涼な時期であり,マツ科針葉樹林が減少し,かわって落葉広葉樹林が拡大し,遅れて温帯性針葉樹の増加がみられた。この時期の温帯性針葉樹林の組成には,地域差が認められ,日本海側ではスギが,内陸部ではヒノキ科型が中心であった。
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