セルロースは地球上で最も大量に生産されるバイオマスの一つであり、将来セルロースを高度に利用するためには、その分子特性の解明が不可欠である。地球上でセルロースは植物界、モネラ界(酢酸菌)、動物界(ホヤ類)で生産されている。従来これらのセルロースはそれぞれの由来の違いにもかかわらず、分子特性・分子構造はすべて同じであるというのが常識であった。しかし当研究によって、我々はこれら由来の異なるセルロースを、溶媒系LiCl/DMAc及びLicl/DMIに溶解させることによって、それらの分子特性に明白な違いのあることを見出した。セルロースは一般にかなり溶解性の低い高分子である。特にホヤ由来のセルロース(ツニシン)は高分子量であることも原因して溶解しにくい。当研究では、レオロジー特性、小角X線散乱、光散乱およびラマン分光測定等を用いて、セルロースの溶解機構について、およびその促進法について詳細に研究し、多くの成果を得た。また、酢酸菌由来のバクテリアセルロースの液晶性及びツニシンの高分子量性に起因する、その溶液の高い曳糸性を利用することによって、高強度の新規セルロース繊維を創製する可能性が示された。得られた成果は次のようにまとめられる。 1)バクテリアセルロース溶液から液晶紡糸することによって、従来のセルロース繊維(レーヨン)と同等かそれを超える強度の繊維が得られることが判明した。 2)セルロースの溶解促進効果には、アミン処理が効果的であり、これによってセルロースのミクロフィブリル構造にナノメートルオーダーの構造変化が生じ、溶解性が著しく向上することが示唆された。 3)バクテリアセルロースは、他のセルロース材料と比べて、対酸化性が大きく、またそれ自身でも還元能を有し、パラジウム等の金属イオンを還元する。これによって、燃料電池等の電解質膜として有用であることが判明し、将来のエネルギー変換膜としての高度利用の方向性が示唆された。
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