研究概要 |
昨年度の野外調査によって,沖縄県石垣島吹通川周辺では,オキフエダイ,ニセクロホシフエダイ,イッテンフエダイの3種がマングローブ域を稚魚の成育場として利用している可能性が高いことが示唆された。これらの魚種は,マングローブ域で稚魚期を過ごし,成長すると沖合いのサンゴ域に移動して,そこで成魚期を迎える可能性が高い。そこで,本年度は,これら3魚種のうち,オキフエダイについて,成長に伴ってマングローブ域からサンゴ域に移動するかどうかを,筋肉の安定同位体組成解析を用いて明らかにした。 マングローブ域で採集したオキフエダイの稚魚(標準体長42〜125mm)とその主要な餌生物(イワガニ類やテッポウエビ類)の炭素安定同位体比(δ^<13>C)は,ほぼ同じであり,-23〜-17‰。であった。一方,サンゴ域で採集したオキフエダイの個体は体長によってδ^<13>Cが異なった。体長180mm以上の大型個体では,-16〜-11‰とマングローブ域のものと有意に異なったが,体長86〜149mmの中型個体ではマングローブ域のものと同じであった。また,サンゴ域で採集したオキフエダイの主要な餌生物(オウギガニ類)のδ^<13>Cは-16〜-8‰であった。 以上の結果より,サンゴ域で採集した中型個体(体長86〜149mm)のオキフエダイは,サンゴ域の餌(δ^<13>Cは-16〜-8‰)を食べているにもかかわらず,筋肉中のδ^<13>Cはマングローブ域に生息する小型個体のものと同じであることがわかった。したがって,これらの中型個体は,以前,マングローブ域に生息していた小型個体がサンゴ域に移動して,そこで成長したものであることが明らかとなった。
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