研究概要 |
ゼブラフィッシュ初期胚を低酸素にさらすと、正常酸素濃度と比較して胚の発生と成長が著しく遅滞する。その際のIGFシステムの動態を検討したところ、低酸素下においてIGFBP-1の遺伝子発現とタンパク質が特異的に増加した。そこで、IGFBP-1が低酸素に起因する胚発生と成長遅滞にどのように関与しているかを明らかにするために、遺伝学的手法を用いて検討した。まず、IGFBP-1に特異的なアンチセンスモルフォリノオリゴを微量注入し、正常酸素下ならびに低酸素下において内因性IGFBP-1をノックダウンした。正常酸素下では、IGFBP-1のノックダウンによる明らかな表現型は観察されなかったが、低酸素下においてIGFBP-1をノックダウンすると、低酸素により惹起される発生と成長の遅滞がおよそ60%改善された。次に、低酸素下で内因性IGFBP-1をノックダウンした胚に、外因的にIGFBP-1を過剰発現させると発生と成長が遅滞した。さらに、IGFBP-1の過剰発現は正常酸素下においても発生と成長の遅滞を誘起することから、IGFBP-1はゼブラフィッシュ胚の低酸素による発生と成長の遅滞を誘起する重要な因子であることが示唆された。次にゼブラフィッシュ初期胚由来の細胞株を用いて、IGFBP-1の細胞増殖能に及ぼす影響を検討した。IGF-1,-2(100ng/ml)の添加により、zf4細胞株の細胞増殖は有意に増加したが、IGFsと等モル量のIGFBP-1を加えると、IGFsによる細胞増殖はおよそ60%抑制された。このIGFBP-1によるIGF依存的な細胞増殖能の抑制は、過剰量のIGFsを加えることにより濃度依存的に消失し、IGFBP-1のみの添加では細胞増殖能に有意な変化は観察されなかった。以上の結果から、低酸素環境により特異的に誘導されるIGFBP-1はIGFと複合体を形成し、IGF依存的な細胞増殖を抑制することで低酸素に起因する発生と成長遅滞に関与すると考えられた。
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