本年度は減数分裂誘起ステロイド:17α、20β-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン(DHP)によって精巣での発現が誘導されるトリプシン様物質の受精に対する機能を解析した。 ウナギを含め魚類の精子には先体が存在せず、受精時に必要なプロテアーゼは精子に存在しないものと考えられてきた。ウナギトリプシン抗体を用いて、免疫組織化学による解析を行ったところ、ウナギの精子膜に抗トリプシン抗体陽性物質が存在することが明らかとなった。この精子膜上のトリプシン様物質は、ザイモグラフィー等の解析によって、プロテアーゼ活性を有していることが明らかとなった。ウナギ精子膜に存在するトリプシン様物質の性情をウェスタンブロット解析等で調べたところ、分子量が分泌性の物に比べ大きいこと、トリプシン活性が膜分画に存在することからウナギ精子に存在するトリプシン様物質は、膜結合型である可能性が考えられた。精子膜上に存在するトリプシン様物質が受精に関係するかどうかを、ウナギ成熟卵と精子を使って解析した。ウナギ成熟精子をセリンプロテアーゼのインヒビターであるAEBSFおよびPMSF、およびトリプシンの抗体を培養液に添加して培養し、培養終了後、培養精子をウナギ成熟卵に媒精して、その受精率を調べた。その結果、AEBSF、PMSFおよび抗トリプシン抗体処理で有意に受精率を低下した。同様の結果は、ハタを用いた実験によっても確かめられた。この結果から、魚類の受精にトリプシンが重要な役割を示すことが魚類で初めて明らかとなった。 以上4年間の本研究により、精子形成および卵形成での減数第一分裂の開始には黄体ホルモンであるDHPが主要な役割を担うこと、DHPの刺激によって誘導されるトリプシンは、減数分裂の開始、精子変態に、膜結合型トリプシン様物質は受精の制御に重要な役割を果たすこと等が明らかとなった。
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