16年度は、高知県内水面漁業センターにおいて人工的に作出された、海産系アユ30個体を用いた行動観察実験を行った。観察は屋外の10トン水槽内に流れのある人工河川を作り、そこに物部川から天然の転石を設置した。実験は、1個体につき朝夕の2回、摂食行動を連続で各50回計100回観察した。観察終了後、供試魚を10%ホルマリンで固定したが、その際外的圧力を受けて固定されないように、バケツに垂直に吊るすかたちで固定を行った。固定後、'体長、櫛状歯数、胸鰭長を測定・計数し、左右差の判定を行った。固定個体を開口した時に、下顎が体軸から右にずれて開く個体を左利き、左にずれる個体を右利きとした。体軸の湾曲については、背方からの方向とした。行動観察による摂食に関する左右への偏りを統計的に分析した所、右利きの傾向を示したもの13個体、左利きの傾向をしめしたもの17個体という結果となった。下顎のずれは14個体が右に、11個体が左に向き、5個体は現在の所判別が難しい。判別可能な25個体のうち、16個体で摂食行動と形態的利き手が一致したが、残り9個体では一致しなかった。この不一致を含む結果は、実験環境(人工河川)が狭く流れがどうしても左右均一にならないために生じたartifactと推測される。クローン個体を用いた実験は、高知県内水面漁業センターのクローン個体が疾病のために全滅し、残念ながら実施することができなかった。
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