研究概要 |
無脊椎動物に広く分布するD-アミノ酸が独自の機能を担って構築するD-アミノ酸バイオシステムの、無脊椎動物における普遍性を明らかにする目的で以下の検討を行った。 クルマエビのアラニンラセマーゼ(ARase)の塩基およびアミノ酸配列を再確認し、cDNA翻訳領域の全長をベクターに組み込み、大腸菌から発現させ、10倍に精製した後、その性質を調べた。また、クルマエビの脱皮前後におけるARase活性の変化を調べ、脱皮当日に筋肉では活性が4倍に上昇し、D-,L-アラニン(Ala)含量も1.2倍に増加した。これらの結果から、ARaseが脱皮に伴う浸透圧変化に応答することが示唆された。一方、稚エビにおいてはD-Alaは存在するものの、活性もmRNAの発現も確認できず、きわめて発現量の少ない酵素であることが明らかになった。 また、クルマエビARaseの塩基配列をもとにミルクイ中腸腺からARaseのcDNAクローニングを種々の方法により試みたが、現在のところまだ成功には至っていない。 一方、D-アスパラギン酸(Asp)を有するアカガイ,サトウガイの筋肉および頭足類神経系について、高いAspラセマーゼ(AspRase)活性を認めた。そこで、細菌のAspRaseの塩基配列をもとにプライマーを設計し、サトウガイおよびヤリイカ神経節からAspRaseのcDNAクローニングを試みている段階である。 さらに、環形動物多毛類の5種についてD-,L-アミノ酸分析を行ったところ、ゴカイ科の種にのみ多量のD-Alaを認めた。D-,L-Alaは高浸透順応により大きく増加し、等浸透調節のほとんど唯一のオスモライトであることが明らかになった。最適温度および反応速度定数は甲殻類とは異なっていた。
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