研究概要 |
無脊椎動物に広く分布する遊離D-アミノ酸が独自の機能を担って構築する「D-アミノ酸バイオシステム」の、無脊椎動物における普遍性を明らかにするため以下の検討を行った。 1.クルマエビの筋肉および肝膵臓からすでに得られたアラニンラセマーゼ(ARase)のcDNAを大腸菌から発現させ,精製後その性質を調べた。また,新たなcDNA塩基配列を取得し比較した。このcDNAは翻訳領域の5'上流に欠損があり、その機能に興味がもたれた。 2.クルマエビARaseの塩基配列を基に、筋肉部に多量のD-アラニンをもつミルクイ中腸腺からARaseのcDNAクローニングを行った。演繹アミノ酸配列はクルマエビのそれと32%のアミノ酸同一率しか示さず、細菌類のそれとわずかな差しかなかった。翻訳領域全長をベクターに組み込み、大腸菌から発現タンパクを得て、活性を確認した。 3.D-アラニンをもたず、D-アスパラギン酸を含有するアカガイ、サトウガイ足筋および各種頭足類についてアスパラギン酸ラセマーゼ(DRase)活性を比較し、スルメイカ視神経節からDRaseのcDNAクローンを得た。演繹アミノ酸配列はアカガイ足筋のそれと48%のアミノ酸同一率であったが、哺乳類脳のセリンラセマーゼと40%弱、また細菌のスレオニンデヒドラターゼ類とも同程度の相同性を示し、細菌のDRaseとは全く相同性を示さなかった。これらはすべてピリドキサールリン酸依存性であり、したがってこれら酵素の分子進化を明らかにする上で、きわめて有益な結果が得られた。 4.環形動物ゴカイ・イソメ類についてD-アラニンおよびARaseの分布を調べ、ゴカイ類にのみ存在することを確認した。アオゴカイを15〜41pptの海水に順応させたところ、体壁のD-,L-アラニンのみが高浸透海水中で大きく増加し、等浸透調節のための最も有効なオスモライトであることが確認された。現在ARaseのcDNAクローニングを行っている。 以上の検討結果から、甲殻類、軟体類、多毛類においては「D-アミノ酸バイオシステム」が普遍的に機能していることが明らかになった。
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