研究概要 |
国内の低平農地域では近年,乾田化が進むとともに都市化による混住化も進みつつあり,洪水時には従来にも増して正確な内水位の予測や,それに基づく的確な排水施設の制御が求められている.一方,アジアモンスーン地域の国外の低平農地域では,一般に排水施設の整備水準が低く,低い整備水準下でのより効率的な施設管理が望まれている.これに対して,農地が持つ洪水緩和機能を定量化し,その潜在的能力を積極的に意識することで,より正確な内水位の予測手法や,より効果的な排水施設の制御手法を開発できるものと考えられる.本研究では国内外の低平農地域を対象とし,その洪水緩和機能の定量化を試みるとともに,得られた洪水緩和機能を積極的に利用した内水位の予測手法や排水施設の制御手法の開発を目指す.初年度の平成16年度は洪水緩和機能の定量化を実証的に進めるため,まず国内では,筑後川下流域の低平農地域,千代田流域に試験流域を設け,降雨量,水位ならびに高精度GPSによる可降水量の観測システムを設置した.国外では,北部ベトナム紅河デルタの低平農地域に位置するPhu Lamコミューン地区を対象に水文データの収集ならびに流域踏査,聞き取り調査を実施した.さらに,得られた観測データをもとに数値実験を行い,両流域における洪水解析モデルや最適化手法などに関する予察的な検討を行った. 解析の結果,まず千代田流域では,幹線排水路に設置されたチェックゲートを最適に管理することで,流域全体としての湛水被害が大幅に軽減されること,この種の最適化計算には遺伝的アルゴリズムが有効であること,GPS可降水量が大雨を予測する上で有用な先行指標となりうること,以上が示唆された.また,Phu Lam地区では,暗渠の構造上の問題や暗渠や水路の管理上の問題から,排水機場から離れた水田では1週間から10日にもおよぶ長期間の湛水の危険性が示唆された.
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