前年度、家畜排泄物をエタノールに変換する有用な好熱性細菌を単離したが、これらの細菌は増殖促進因子として酵母抽出物を要求した。このため培養コストがかさみ実用的でないため、酵母抽出物を要求せず60℃で生育する有用細菌の単離に着手した。その結果、5種類の有用な細菌を単離した。このうち3種類は繊維分解性の細菌であり、16S rRNA遺伝子に基づいた系統解析を行った結果、いずれもClostridium属に属することがわかった。残りの2種の細菌は可溶性糖類分解性であり、それぞれThermoanaerobacter属とThermoanaerobacterium属に属していた。系統解析の結果、これら5種の細菌はいずれも新種である可能性が高かった。前者の繊維分解性細菌と後者の可溶性糖類分解性細菌を組み合わせて混合培養を行ったが、エタノール生成量は増加することはなかった。ブタ排泄物でのエタノール生成量は、後者の可溶性糖類分解性細菌を組み合わせて培養した場合が最も高く、約8mMのエタノールを生成した。しかし、排泄物の分解率は十分であるとは言えなかった。高温であるほど分解速度は高まるので、現在70℃で排泄物をエタノールに変換する好熱性細菌を探索している。一方、エタノールの副産物として生成される酢酸を水素に変換する光合成細菌の探索も行った。その結果、酢酸20mMから水素約20mMを生成する細菌群を採取した。しかし、光合成細菌はアンモニアが存在すると水素生成が抑制されるため、遺伝子操作を含めた何らかの手法が必要とされる。以上より、好熱性嫌気性細菌と光合成細菌を組み合わせることで、家畜排泄物からエタノールや水素を取り出せることが示されたが、排泄物の分解率は低いという課題が残された。70℃で増殖する微生物を単離して分解率を高めることに加え、酸で排泄物を前処理した後、微生物処理を行うことを検討する必要があると考えられた。
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