研究概要 |
胎盤剥離のモデルになると考えられる実験系として胎盤由来繊維芽細胞にアラキドン酸を添加すると細胞が剥離する現象をすでに見出しているが、本年は種々の阻害剤を用いてその詳細を検討した。ザイモグラフィーでマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性がアラキドン酸添加により上昇する事を示していたが、他のプロテアーゼが細胞剥離に関与している可能性もあるため、セリンプロテアーゼ阻害剤、システインプロテアーゼ阻害剤をアラキドン酸と同時に投与したが、いずれも細胞剥離を阻止できなかった。対して、MMP一般を阻害するEDTA及びMMP2,9阻害剤を添加したところ、前者は剥離を完全に抑え、後者は剥離細胞数を30%程度まで減少させた。これらのことから、アラキドン酸により誘導される胎盤由来繊維芽細胞の剥離は一般的なプロテアーゼではなく、MMPに担われていることが明らかとなった。分娩後の胎盤剥離(後産の排出)にもMMPが関与することが推定されており、本実験系を用いる事の有効性が支持された。またこの実験で観察される細胞剥離はアラキドン酸で誘導されるが、プロスタグランジンでは再現されないこともすでに報告した。このことはアラキドン酸がプロスタノイド以外のエイコサノイドに変換されて作用している可能性を示している。そこでシクロオキシゲナーゼ(COX)系と対をなすリポキシゲナーゼ(LOX)系の関与について検討した。5-LOX阻害剤、12-LOX阻害剤、15-LOX阻害剤をアラキドン酸と同時に投与したところ、12-LOX阻害剤投与により細胞剥離が阻止された。このことはアラキドン酸が12過酸化物誘導体に変換して細胞剥離を引き起こしている事を示した。これらの情報をインビボの分娩に適応してみると、胎子の排出とその後の胎盤の排出がアラキドン酸を基にした異なったシグナル伝達系で作動している可能性を示した。
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