研究概要 |
本研究は,乳牛の黄体機能調節のメカニズムの基礎的な分子機構を,特に血管新生・退縮と血管トーヌスによって支配される黄体組織の生と死の視点から捉え,乳牛を用いた生体複合モデルを中心に切り込み,生理学の基礎的な概念に立った安定して強い黄体作出と,確実な黄体退行誘起の技術開発への展望を得ようとするものである。 黄体形成 ウシ黄体から黄体細胞、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞を獲得し、「仮想黄体培養系」実験モデルを作成することを目的に、黄体の周辺部と中心部から得た組織から血管内皮細胞の単離に成功した。これらを形状、増殖率、含有因子によりサイトケラチン陽性血管内皮細胞(CK+EC)と陰性細胞(CK-EC)としたとき、1)両タイプとも血管内皮細胞特有の因子(CD31,Tie2)を発現し、2)大型血管が多数存在する黄体周辺部で血管内皮細胞の回収が多かった、3)CK-ECがeNOS mRNAを発現したが、CK+ECは発現しなかった、4)黄体機能維持に重要な細胞間接着因子であるconnexinやcadherinファミリーは、CK-ECで高い発現が見られた。しかし、黄体細胞との共培養系確立は次のステップの課題として残った。 黄体退行 前年度に、強力な血管弛緩因子である一酸化窒素(NO)が、黄体周辺部の血流が退行開始前に必ず増加するという現象の原因である可能性を示すことができた。本年度は、NO合成酵素の抑制因子を直接黄体内に投与すると同時に微量の黄体組織を経時的に採取して、黄体周辺部血流域と黄体退行現象への影響や血管収縮・拡張調節や黄体退行に関連する遺伝子・蛋白質発現の変化を検証した。その結果、PGF投与前に抑制剤を投与すると通常のPGFによる黄体周辺部の血流域増加が完全に抑制され、黄体退行現象を2日間遅延させ、同時に関連する血管作動性因子の遺伝子群の変動も遅れたが、黄体退行の完全な阻止はできなかった。
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