研究概要 |
(1)雌雄の鳴管および声道の計測を行い雌雄の差異について検討 舌や鳴管など、ほとんどの器官で雄のほうが有意に長かく、鳴管内部のラビアの大きさも雄の方が大きい値を示していた。声紋において、フォルマントに性差は見られなかったが、倍音に性差がみられた。強制発声においてはフォルマントに性差が見られ第二・第三フォルマントでは雌が雄のそれらより高い周波数域にあった。 (2)生殖腺の季節変動と形態変化 オス成鳥は4月に、メス成鳥は5月に生殖腺の発達のピークを迎え、6月に生殖腺の完全退行がみられた。若鳥と中間も生殖腺に不明瞭な発達が認められた。雌雄それぞれの生殖腺の重量と細部組織の発達具合に相関関係がみられた。オス成鳥では3〜5月の間にのみ精子がみられた。 (3)羽の撫構造について雌雄の差異 小羽枝鉤部の長さはメスの方が有意に長かった(P<0.05)。小羽枝の間隔はメスの方が有意に広かった(P<0,05)。また、透過型電子顕微鏡で小羽枝内のメラニン顆粒の密度を算出したところ、オス(n=4)が8.34個/μm^2,メス(n=3)が5.40個/μm^2でオスの方が有意に高かった(P<0.05)。 (4)ハシブトガラスおよびハシボソガラスの一本の羽からの性判別および系統遺伝学的解析 雌においてはCHD1ZとCHD1Wの2本のバンド,雄ではCHD1Zの1本のバンドのみを持っており,性判別が可能となった。チトクロームbでは、ハシブトガラスおよびハシボソガラスの塩基配列の相同性は91%、アミノ酸配列では99%であった。D-loopでは、両カラスの1,355bpにおける塩基配列の相同性は98%であった。 (5)個体間の相互認識に関する行動についても検討 実験1と2とで、訪問個体のカラスを対面させたときの先住個体の反応は、全く同じであるとは言えなかった。しかし、ケージで対面させたときに前半に対面させた訪問個体群への攻撃は少なかったこと、後半の訪問個体群への攻撃は増加したこと、更に後半の訪問個体群からは攻撃を受けても逃げないことが多かったことの2点が共通して見られた。また、訪問個体の性別による反応の違いについては、可能性はうかがえたが、それぞれの実験につきメスが1羽ずつしかいなかったため、今後訪問個体にメスの数を増やして検討を重ねる必要があると考えられた。
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