研究概要 |
1.ニホンジカ(976頭)とニホンイノシシ(87頭)から得た血清を用い,ELISA法とウエスタンブロット法によりE型肝炎に対する血清学的診断を行った.その結果,それぞれの種で2.6%および2.3%が抗体陽性と判断された.イノシシにおいては,RT-PCR法により3頭でHEV-RNAが確認されたが,捕獲状況からこれらは同腹子と考えられた 2.野生のニホンイノシシ(88頭)から得た血清を用い,ELISA法と顕微鏡下凝集試験(MAT)により,レプトスピフに対する抗体の検出を行った.その結果,12検体(13.6%)が抗体陽性と判断され,さらにMATでは血清型copenhageni, australis, bratislavaの抗体が検出された.そのため,捕獲ならびに解体にともなう人や猟犬に対する感染リスクが示唆された. 3.野生のニホンジカ173頭を材料に,糞便培養法,LAMP法,nested PCR法によりヨーネ菌の検出を試みた.その結果,糞便培養法では菌は確認されなかった.また,LAMP法とnested PCR法でもヨーネ菌DNAは検出されなかった. 4.北海道産の野生ニホンジカ(エゾシカ)においては,末梢血よりRickettsia helveticaとEhrlichiamurisの遺伝子が確認された. 5.岩手県で捕獲された野生ニホンジカからは,槍形吸虫Dicrocoelium chinensis (47.3%)が,第四胃より胃虫Spiculopteragia houdemeri(100%)が,さらに盲腸から腸結節虫Oesophagostomum sikae(100%)およびウシ鞭虫Trichuris discolor(28.6%)が検出された.糞便からは,Dicrocoelium属虫卵(11.8%),Trichuris属虫卵(3.6%), Ogmocotyle属虫卵(2.7%), Moniezia属虫卵(2.2%)が検出された.原虫オーシストのEimaria austriaca(20.0%), E. sordida (2.2%), E. robusta (0.9%)もそれぞれ検出されたが,GiardiaとCryptosporidiumは検出されなかった. 6.以上の結果を踏まえ,野生動物(とくに大型の狩猟獣)から感染する恐れのある感染症について,鳥獣行政担当者や一般市民に向けた普及啓発用資料を作成した.
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