研究概要 |
家畜・家禽のボツリヌス症は、主としてC型およびD型菌により起こると考えられていた。由来の異なる分離菌株の持つ神経毒素遺伝子を詳細に調べた結果、哺乳類ボツリヌス症由来菌の持つ神経毒素遺伝子は典型的なC型あるいはD型であり、一方、鳥類ボッリヌス症由来菌の持つ神経毒素遺伝子はC/Dモザイク様構造をしていることを明らかにした。C/Dモザイク毒素はC型毒素より鶏に対して高い毒性を示した。さらに、神経毒素の免疫原性について標準抗毒素を用いた中和力価を指標に検討したところ、C型あるいはD型毒素とは異なる抗原性を有することが分かった。稀少鳥類保護の面から、C/Dモザイクトキソイドの防御抗体産生性を調べたところ、その有効性を確認することが出来た。C型、D型およびC/Dモザイク神経毒素の受容体認識を担うHc部分のリコンビナント蛋白を調製し、これらを用いて神経細胞の持つ受容体の性状を解析した。C型HcはガングリオシドGT1b,GD1bに生理的条件下で結合し、D型、C/DモザイクHcは隣脂質、フォスファチジルエタノーアミン(PC)に特異的に結合することを明らかにした。ガングリオシドGT1b,GD1bを合成できないGM3合成酵素欠損(KO)マウスはC型神経毒素に対して耐性になることがわかった。このKOマウスの小脳顆粒細胞に対する作用を調べると、D型およびC/Dモザイク神経毒素はwild tybeと同程度の活性を示した。これらの結果から、C型神経毒素の作用は他の型の神経毒素と同様にガングリオシドを受容体の構成成分として利用しているが、D型およびC/Dモザイク神経毒素は、これまでの予想に反してガングリオシド非依存的に細胞に結合し、作用を発現することが明らかになった。C/Dモザイク毒素が鳥類ボツリヌス症を特異的に起こすことは、この受容体認識部分にあることが予想されるため、その詳細な認識機構、細胞内移行について解析を進めている。
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