フタトゲチマダニHaemaphysalis longicornis中腸由来溶血性セリンプロテアーゼの機能と発現:マダニの宿主血液消化は蚊など吸血性昆虫とは異なり、吸血によってマダニ体内に取り込まれた宿主血液は、主として中腸上皮の細胞内で消化される。しかし、マダニの吸血生理をささえる中腸分子の存在については不明な点が多い。我々は国内最優占種であるフタトゲチマダニHaemaphysalis longicornis中腸のマダニ生物活性分子(TBM)からセリンプロテアーゼ様遺伝子(HlSP)を単離し、吸血時における発現及び遺伝子産物の機能について調べた。シグナルペプチドを含むHlSPは、分泌性の蛋白質であると考えられた。また、内在性のHlSP蛋白質は中腸上皮細胞に発現し、吸血による発現の増強がみられることから、中腸での血液消化に関与することが強く示唆された。大腸菌発現の組換えHlSP(rHlSP)をTris-HCl緩衝液中でウサギ及びウシ赤血球と混和したところ、溶血によるヘモグロビンの流出がrHlSP濃度依存的に確認された。HlSPの二本鎖RNAを成ダニ血体腔に注入し、宿主より吸血させたところ、RNA干渉によってHlSPmRNA及びHlSP蛋白質の発現が特異的に抑制されると共に、吸血に伴う体重の増加が有意に阻害された。以上の成績により、HlSPはフタトゲチマダニ吸血時に機能し、中腸内腔での溶血に関与することが示唆された初めてのプロテアーゼ分子であると考えられた。
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