研究概要 |
水田地域における生物生息環境保全のための水土環境診断システムを構築するため,島根県東部の水田地域を対象として,基本地理情報の実地調査,生物生息環境調査,水質調査,土壌環境調査を行い,基本的な環境情報の収集と整理を行った。まず,水田流域における魚類の多様性と水質や流速などのパラメーターとの関係を考察したところ,有機物濃度や硝酸態窒素の濁度が低くなるほど多様性指数が大きくなる傾向にあり,一方,流速が緩やかになるほど多様性指数が大きくなる傾向などがわかった。また,営農活動と水質との関係を把握し,水質変動と営農活動との関係を把握するため,調査対象地内の約11haの水田群を対象として,用水,排水,田面水の水質を週1回の頻度で測定した。さらに,排水量,降水量,水田からの浸透量や,ペンマンモンティース法を用いて推定した蒸発散量から調査期間内での水収支の推定を試みた。その結果,全窒素の平均水質では,用水が0.5mg/L,排水が2.6mg/L,田面水が1.1mg/L,降水中が0.8mg/Lであった。また,水収支では,取水量1967mm,降水量598mm,蒸発散量489mm,浸透量606mm,排水量1470mmであることがわかった。土壌環境調査では,毛管力を利用した採水装置を試作し,多点での土壌浸透水の採水を試みた。その結果,通常は遮水板を設置して採水しなければならない場所でも,毛管力のみによって浸透水を採取することができ,溶質の浸透過程の機構を明らかにするためのデータを得ることができた。また,土壌中の主要な陽イオンであるカルシウム,マグネシウム,ナトリウム,カリウムの濃度を多数の圃場で測定するとともに,その結果をGIS(地理情報システム)によって解析し,河川からの距離等の地理的要因が陽イオンの濃度に関係していることを明らかにした。
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