研究概要 |
水田地域における生物生息環境保全のための水土環境診断レイヤーを構築するため,島根県東部の水田地域を対象として,基本地理情報の実地調査,生物生息環境調査,水質調査,土壌環境調査を行い,基本的な環境情報の収集と整理を行った。本年度は,水田地区における溜池の水質と生息生物についての調査を行い,COD, TOC,アンモニアなどと植物プランクトン(メロシラ科のAulacoseira, Melosira variansなど)の出現との関連性についての知見を得た。また,水田群を対象として,水質を週1回の頻度で測定するとともに,各種水文量の実測と推定を行った。その結果,代掻き時期の排水濃度は,代掻き開始直後や田植え開始前・田植え中などに急激に増大し,また,田植え中・田植え後に排水が見られると無機態濃度が増加することがわかった。さらに非灌漑期は排水のリン濃度が高濃度であるが,流量が少量であるため代掻き時期・灌漑期と比較した場合には下流域へ及ぼす影響は小さいと考えられた。土壌環境調査では,毛管力を利用した採水装置を試作し,多点での土壌浸透水の採水を試みた。その結果,通常は遮水板を設置して採水しなければならない場所でも,毛管力のみによって浸透水を採取することができた。また,浸透能力の高さや,土壌の緩衝能の強さなど,溶質の浸透過程の機構を明らかにするためのデータを得ることができた。さらに,土壌中の主要な陽イオン濃度を多数の圃場で測定するとともに,その結果をGIS(地理情報システム)によって解析し,河川からの距離等の地理的要因が陽イオンの濃度に関係していることを明らかにした。また農地の汎用化を進めている地区において,水田と畑地の別に関する農地用途の調査を継続し,汎用化が農地環境に与える影響に関するデータを収集して類型分けを行った。
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