研究概要 |
水田地域における水質環境を規定する物質として,リンとの親和性の強い鉄化合物の挙動を定量評価した。具体的には島根県東部の水田地域の排水河川において,鉄成分(酸可溶性鉄および溶解鉄)の挙動を調査した。その結果,鉄成分の挙動には,浮遊性の物質である鉄バクテリアなどの微生物の活動が大きく影響し,これには,水域の酸化還元電位とpHが作用していることなどがわかった。また,調査対象水田流域はコハクチョウなど渡り鳥の越冬場として知られているので,渡り鳥が越冬中に水田水環境に及ぼす影響を調査し,その影響度を推定した。その結果,渡り鳥が越冬中に排出する糞の内,田面水中に供給される量は全窒素で平均約68kg/ha,全リンで約12kg/haと推定された。これは,灌漑期中に施肥される全窒素量(約60kg/ha)と比べると同程度であった。また,リンの場合は,全リン量(36kg/ha)と比べると1/3程度であることが分かった。このことから渡り鳥は越冬期間中の水田水環境に対して比較的大きな影響を持つと分かった。さらに,土壌浸透水の分析から,浸透強度の違いによって汚濁負荷物質に対する土壌の緩衝能が働く場合と働かない場合があることが明らかになり,局地収集豪雨時には土壌による緩衝能が十分に働かず,高濃度のままの溶質が土壌から溶出する様子が観察された。また,このように土壌浸透水を直接採取することで土壌環境から流域における汚濁負荷流出の傾向をある程度推測することが可能であるデータが得られた。さらに,広域調査では電磁探査を使い,現場を余り乱すことなく表層土壌環境をとらえることに成功し,土壌レイヤー情報の効率的な取得について新たな手段を得た。そして,農地の汎用化を進めている地区において,水田と畑地の別に関する農地用途の調査を継続し,汎用化が農地環境に与える影響に関するデータを収集して類型分けを行った。
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