植物における外来タンパク質の効率的な生産を念頭に置き、小胞体で合成されたタンパク質の安定性を向上させるために基礎的知見を収集し、安定性向上のための具体的アプローチへの基盤研究が目的である。小胞体で合成されるタンパク質が正しくフォールディングされなければ、BiPに代表される小胞体シャペロンが誘導され、フォールディングの介助に働くが、正しくフォールディングされないタンパク質は最終的には分解される。この機構は小胞体ストレス応答と呼ばれ、実験的知見およびゲノム情報から植物でもこの機構が存在することが想定される。シャペロンの中でもBiPは単にフォールディングを促進するだけでなく、正しくフォールディングできないタンパク質の分解にも関与するとされているが、その詳細は植物では殆んど不明である。本研究では、シロイヌナズナを用いてBiPを始めとする小胞体シャペロンの挙動を調べることから、小胞体で合成されるタンパク質の安定性に関する分子機構に迫る。小胞体ストレスによるBiPの誘導には、新規のbZIP型転写因子AtbZIP60が重要な役割を果たすことを明らかとした。続いて、誘導されたBiPが小胞体ストレス応答において果たす役割を調べることした。興味深いことに、BiPはツニカマイシン処理などの小胞体ストレスにより転写レベルでは数十倍の誘導を受ける。プロモーターを用いてレポーターアッセイを行っても、レポーター活性の顕著な誘導が見られる。ところが、BiPタンパク質はツニカマイシン処理により顕著に蓄積量が増加しない。これは、GRP94などの他のシャペロンにおいても同様であった。しかし、細胞分画をおこなったところ、BiP、GRP94ともに一部で、液胞への局在変化が見られた。現在、液胞局在の確認とともに、その意義について検討している。さらに、過度の小胞体ストレスが細胞死を引き起こすことも明らかとした。
|