研究概要 |
新しいタイプの炭素-炭素結合形成反応が精力的に開発される中で,遷移金属触媒を利用する環境調和型の新規合成法が注目を集めている。とりわけ触媒的なカスケード反応の開発はワンポットで多様な官能基を有する多環状分子を立体選択的に合成可能であることから,最近多くのグループにより研究されている。本研究では,「ホモアリル-ホモアリルラジカル転位反応」と「ニッケル触媒を利用する還元的環化反応」のカスケード反応への展開と,その生理活性天然物合成への適用を検討した。 (1)ホモアリル-ホモアリルラジカル転位反応を利用するセロフェンド酸AならびにBの不斉全合成 セロフェンド酸AならびにBは,2002年にエーザイのグループによって牛の胎児の血清から単離構造決定された四環性のジテルペンである。構造上の特徴は,ビシクロ【2.2.2]オクタン環とトランスデカリン環とが融合している点で,スルホキシド部位を含めて9個の立体中心を持つ高度に官能基化した化合物である。詳細な作用機序の解明を行うためには,化学合成によるセロフェンド酸類の供給が必須であることから不斉全合成に着手した。その結果,セロフェンド酸類のCD環部に相当するビシクロ[2.2.2】オクタン骨格は,触媒的環化アルケニル化反応により得られるビシクロ【3.2.1】オクタン骨格にホモアリル-ホモアリルラジカル転位反応を適用することによりワンポットで合成することに成功した。さらにジエンならびにジエノフィル部を導入後,逆電子要請型分子内Diels-Alder反応を適用することによりセロフェンド酸の炭素基本骨格を構築した。最後にメタンチオールをD環部に導入してセロフェンド酸A及びBの不斉全合成を達成した。 (2)ニッケル触媒を利用する還元的還化反応を利用するトリシクロ[7.2.1.0^<1.6>]ドデカンのワンポット合成 電解還元を炭素-炭素結合形成反応に適用した報告はあるものの,カスケード反応までレベルアップさせた研究はこれまで殆んど行われていない。本研究では,ニッケル触媒を用いる定電位還元を利用し,シクロヘキセン誘導体からワンポットでビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格ならびにトリシクロ[7.2.1.0^<1.6>]ドデカン骨格を合成する方法論の開発に着手した。その結果,再現性良く目的の双環性及び三環性化合物が比較的よい収率で得られてくることが分かった。これまでラジカル種の発現には毒性の高いスズ化合物が用いられてきたことから,定電位還元を利用するラジカル環化反応はその代替法として期待される。
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