研究概要 |
有機化学における新領域、即ち三価の超原子価有機臭素化合物(λ^3-ブロマン) の化学の分野を開拓することが目的である。臭素はその酸化電位が高いため(イオン化電位eV:PhI8.69,PhBr8.98)、三価の超原子価有機臭素化合物の合成は極めて困難である。このためアルキニル基やアルケニル基を配位子とする超原子価有機臭素化合物はこれまで合成されたことが無く、またその反応性についても全く不明のままであった。我々は平成16年度科学研究費補助金により、これまでに合成例の全く無いアルキニル-λ^3-ブロマンの合成反応を開発することに成功した。アルキニル-λ^3-ブロマンークラウンエーテル錯体を合成し、X線結晶解析によりその固体構造も明らかにした。また合成したアルキニル-λ^3-ブロマンは極めて優れたMichael受容体として機能することも明らかにした。平成17年度科学研究費補助金ではオレフィン炭素原子上に三価の臭素置換基を導入したビニル-λ^3-ブロマンの合成を検討し、β-フルオロビニル-λ^3-ブロマンを立体選択的に合成することに成功した。 1985年、オレフィン炭素原子上に三価の臭素が結合したビニル-λ^3-ブロマンを溶液中において発生させたという論文がOlahらにより発表されたが、不安定なためその単離・同定には至っていなかった。20年の歳月を経たことになるが、β-ハロビニル-λ^3-ブロマンが初めて合成されたことになる。末端アセチレンにBF_3-Et_2O存在下ジフルオロ-λ^3-ブロマンを作用させると、(E)-β-フルオロビニル-λ^3-ブロマンが立体選択的に生成した。5-chloro-1-pentyneを用いると、dominoλ^3-bromanation-chlorine shift-fluorinationが進行し、(E)-β-クロロ-ω-フルオロビニル-λ^3-ブロマンが高収率で生成した。
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