交互累積膜法により、コンカナバリンAとグリコゲンまたは合成糖ポリマーを用いてグルコース応答性ナノ薄膜が調製できることが明らかになった。各種糖ポリマー材料を検討した結果、糖残基の化学構造がナノ薄膜の製造過程に著しい影響を与えることがわかった。グリコゲンを用いると最も好ましい性能を有するナノ薄膜を与えた。このナノ薄膜はpH7〜9程度で安定であるが、数ミリモル程度のグルコースが存在すると薄膜が自発的に1〜2分で崩壊することを見出した。これは、コンカナバリンAとグリコゲンの結合がグルコースにより置換されることに起因することが明らかになった。ナノ薄膜の崩壊現象はグルコース以外の糖でも観察され、マンノースやメチル化糖もコンカナバリンAとの結合定数の大小に応じて効果的にナノ薄膜の崩壊を誘起した。 次に、各種ナノ薄膜のインスリンに対する透過性を評価するために、交互累積膜法により作製したナノカプセル中にインスリンを封入する手順を確立するとともに、カプセルからの漏出挙動を検討した。その結果、炭酸カルシウムとインスリンの混合微粒子の表面に各種高分子電解質を交互に被覆する方法でインスリン封入ナノカプセルの調製に成功した。このナノカブセルからのインスリンの漏出速度は、カプセルの調製に用いた高分子電解質材料の種類に著しく依存し、ポリエチレンイミンを用いるとインスリンは30分後には約70%が漏出したが、一方、ポリアリルアミンを用いるとインスリンの漏出は10&程度にとどまった。また、カプセル皮膜の厚さも漏出速度に影響することがわかった。今後は、インスリン封入ナノカプセルからのインスリンの漏出をグルコース濃度に応じて制御することができるように設計したナノカプセルの作製を行う必要がある。
|