瞬目反射の古典的条件付けにおける小脳、海馬および内側前頭前野の役割を検討した。 1.小脳皮質特異的に障害を持つマウス(GluRδ2欠損マウス)の海馬θ波(4-12Hz)を解析したところ、学習前には、野生型マウスに比べてGluRδ2欠損マウスのθ波の割合が有意に低かった。学習が進むにつれて野生型マウスにおいてθ波の割合が減少したが、GluRδ2欠損マウスではその減少が軽微であった。type1(8-12Hz)とtype2(4-8Hz)に分けて解析すると、野生型マウスにおいてはtype1は学習初期に一度増加しその後減少していたが、GluRδ2欠損マウスではほとんど変化していなかった。type2は両方のマウスにおいて毎日の条件付けに伴って減少する傾向があった。以上の結果は、小脳機能に障害を持つマウスでは学習中を含めて海馬の機能が野生型マウスとは異なることを示唆している。 2.GluRδ2欠損マウスの学習が小脳に依存していることを示すために、条件付ける目と同側あるいは対側の小脳半球を吸引除去してから条件付けを行ったところ、どちらの小脳半球を破壊しても学習が大きく障害されることがわかった。この結果は、小脳皮質の機能が大きく障害されているマウスにおいてもこの学習が小脳依存的であることを示すとともに、この学習が両側性であることを示唆している。現在、野生型マウスにおける小脳依存性について再検討を行っている。 3.トレース課題における内側前頭前野の役割を検討するために、ラット内側前頭前野にNMDA受容体阻害薬であるAPVを局所投与したところ、毎日の学習前あるいは学習後の阻害により、トレース課題が顕著に障害されることが明らかとなった。この結果は、内側前頭前野のNMDA受容体が、記憶獲得の初期過程および記憶固定化の初期過程に重要な役割を果たすことを示唆している。
|