本年度は、まず、マウス瞬目反射条件付けにおける同側および対側小脳の関与を、種々の破壊実験によって調べた。まず、Chenら(1996)の報告に従い、中位核を含む深部核領域を両側性に電気破壊した後、3日間の回復期間を置いて条件付けを行ったところ、両側破壊群は顕著な学習障害を示した。同様な実験を同側および対側破壊群でも行ったところ、両群ともに中程度の学習障害を示した。ところが、回復期間を2週間設けた場合には、全ての破壊群が対照群と同様に学習した。そこで、破壊をより確実に行うために吸引除去による同側もしくは対側の小脳半球破壊を行い、2週間の回復期間をおいてから条件付けを行ったが、学習障害は全く認められなかった。一方、十分学習した後に小脳半球を破壊し、2週間の回復期間をおいてから再び条件付けを行った場合には、破壊前に獲得した記憶の保持に顕著な障害が見られ、その後、中程度の再学習した。以上の結果は、マウス瞬目反射条件付けには同側および対側の両方の小脳が関与していること、小脳がない場合でも、破壊後2週間後には何らかの補償的なメカニズムを使って学習することが可能になる、ということを示唆している。 この学習に対する海馬の関与を調べるために、小脳破壊を行ったマウスが学習した後に海馬を破壊し、2週間の回復期間をおいた後に記憶の保持を検討したところ、対照群と同等の記憶の保持が見られた。このことは、海馬は少なくとも記憶の保持および想起には関与していないことを示唆している。現在、海馬以外の部位の関与の検討を行っている。
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