1.野生型マウスにおける小脳依存性および海馬の役割の検討 前年度に引き続き、野生型マウスにおける瞬目反射条件付けの小脳依存性を、海馬依存性の高い長トレース課題(トレース時間が長いトレース課題)を用いて検討した。野生型マウスを長トレース課題で条件付けた後、麻酔下に両側の小脳を吸引除去した。その後、2週間の回復期間をおいて再び条件付けを行い、記憶保持の程度と再学習能力を調べた。その結果、遅延課題と同様に、小脳破壊群は対照群に比較して再条件付け1日目の条件応答が大きく障害されていた。しかしながら、再条件付けを繰り返すことにより、条件応答を再獲得することが明らかとなった。この結果は、長トレース課題においても通常は小脳に依存して記憶が獲得されるが、破壊などにより小脳がない場合には補償的に他のメカニズムにより学習が可能であることを示唆した。 2.GluRδ2欠損マウスにおける小脳依存性の検討 小脳皮質の機能に重篤な障害を持つGluRδ2欠損マウスにおける瞬目反射条件付けの小脳依存性を検討した。GluRδ2欠損マウスを短トレース課題で条件付けた後、両側の小脳を吸引破壊した。2週間の回復期間の後に再条件付けを行ったところ、記憶保持に重大な障害が見られたが、その後、条件付けを繰り返すことにより再学習した。この結果は、小脳皮質に異常があるGluRδ2欠損マウスにおいても小脳に依存して学習が行われることを示唆した。 3.ラットにおける小脳依存性の検討 電気生理実験を念頭に、ラットにおける小脳依存性を再検討した。ラットを遅延課題で条件付けた後、学習した眼と同側もしくは対側の小脳半球を吸引除去し、約3週間の回復期間の後に記憶の保持と再学習能力を検討した。その結果、ラットは同側の小脳半球に大きく依存して学習するが、同側小脳が破壊されても再学習能力は有することが明らかとなった。
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