我々はこれまでにCHO細胞のホスファチジルセリン(以下PS)合成変異株とシンドビスウィルス(SIN)レプリコンを利用して、SINレプリケースによる遺伝子発現にPSが必要であることを見いだした。遺伝子発現に至るまでのどの過程でPSが関与するのかを調べるため、変異株に構造遺伝子の代わりにlacZ遺伝子をコードするSINレプリコンRNAを導入し、レプリケースによるlacZ RNA合成量及びそれより翻訳されるβガラクトシダーゼ量の時間変化を比較した。変異株をPS含量が減少する条件で培養すると、PS含量が正常である条件で培養した時に比べて、レプリコンRNA導入後15時間目以降から、βガラクトシダーゼ産生量の低下が認められた。しかしlacZ RNAの蓄積量は、15時間の前後でPS含量の減少により低下することはなかった。従って、レプリケースによりRNAが合成された後、翻訳されるまでの過程にPSが必要であることが示唆された。SIN感染においては、spheruleという膜構造の中で構造遺伝子RNAが合成された後、そのRNAが翻訳されるためにspheruleから輸送される過程があると示唆されている。このことから、PSがspheruleの構造維持に重要である可能性が考えられた。 PS合成酵素(PSS)の構造と機能に関する解析の一環として、PSS1とPSS2のキメラ及び部分欠失型PSS1のセリン塩基交換活性について検討した。PSS1のHis-205からMet-234までの30残基は、うち20残基がPSS2と共通する上、酵素活性に関わるアミノ酸残基が集中している。そこで、PSS1の同領域をPSS2で置換し、基質特異性が転する可能性について検討した。その結果、このキメラは、酵素活性を全く有さなかった。また、PSS1のN末37残基のPSS2での置換、或いは欠損は酵素活性に影響せず、120残基の置換、或いは67残基の欠損により酵素活性は失われた。一方、C末側は約20残基の欠損により活性は従来の活性の約30%にまで低下し、70残基の置換では約15%にまで低下した。以上より、PSSは活性を保持する上で厳密な構造維持を必要とすること、PSS1のN末38残基目から67残基までに酵素活性を保持するための分岐点があること、C末20残基中に十分な活性を発現させるために必要な部位があることが示唆された。
|