研究概要 |
申請者らはアミロイド蛋白(Aβ)産生促進因子として小胞体(ER)ストレス誘導性のHerpを同定している。本研究目的は、HerpによるAβ産生促進機構およびHerpのERストレスにおける役割を解析し、Aβ産生とERストレス応答の両者で共通する分子基盤を明らかにすることである。 本年度は、Herpノックアウトマウス(未発表)より、Herp欠失線維芽細胞株(Herp-/-細胞)を樹立し、これを用いてHerpのAβ産生における機能解析を行い、以下のことが明かとなった。 (1-1)Aβ産生におけるHerpの関与:Herp-/-細胞でもAβが産生され、HerpはAβ産生に必須分子ではないことが明かとなった。一方、ERストレス誘導剤で細胞を処理すると産生されるAβ42/Aβ40比が20%減少することを見出したが、Herp-/-細胞では、この変化が完全に抑制されていた(Aβは、Aβ40およびAβ42の2種存在し、どちらもPS複合体によって産生される。Aβ42の細胞毒性はAβ40に比べ極めて高い)。 (1-2)プレセニリン(PS)複合体構成因子(PS、ニカストリン、APH-1、PEN-2)への代謝に及ぼすHerpの影響:Aβ産生に必要なγセクレターゼ活性はPS複合体が担っていることが明らかとなっている。HerpのAβ産生に於ける役割の手がかりを得るため、HerpのPS複合体構成因子の代謝に及ぼす影響を調べた。その結果、細胞をERストレス誘導剤で処理すると、PS、PEN-2,およびニカストリンの分解が観察されたが、その分解の程度は、Herp-/-細胞では、野生型に比べて明かに抑制されることを見出した。このとは、ERストレス刺激によって誘導されるPS,PEN-2,ニカストリンの分解経路にHerpが関わっている可能性を示唆するものである。 以上から、ERストレスにより、PS複合体の分解が促進され、γ切断部位の変化が引き起こされることを見出したが、これらの過程にHerpが関与していることが強く示唆された。今後は、より詳細にこれらの過程の意義とHerpの役割をさらに追求していく必要がある。
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