研究概要 |
申請者らはアミロイド蛋白(Aβ)産生促進因子として小胞体(ER)ストレス誘導性のHerpを同定している。本研究目的は、HerpによるAβ産生促進機構およびHerpのERストレスにおける役割を解析し、Aβ産生とERストレス応答の両者で共通する分子基盤を明らかにすることである。 昨年度のHerp-/-細胞を用いた解析から、HerpがAβ産生酵素(γセクレターゼ)であるプレセニリン(PS)複合体構成因子(PS、ニカストリン、APH-1、PEN-2)の分解経路に関与していることが示唆された。本年度は、この点をより明瞭にするため、以下の解析を行った。 PS複合体は、4つの膜蛋白からなるが、これら因子の細胞内の量は厳密に制御されていることが明かにされている。すなわち、PS複合体を形成しない構成因子は、プロテアソーム経路ですみやかに分解を受ける。しかしながら、どのような機構で、余分な因子が不要と認識され分解されるかその詳細は明かになっていない。 一方、Herpは細胞内で迅速に分解されるが、この分解は、Herpの持つユビキチン様ドメイン(Ub)に依存していることを申請者らはすでに明かにしている(Sai et al., FEBS Lett. 553:151,2003)。すなわち、Ubを欠失したΔUb-Herpは、分解が著しく阻害され細胞内で安定に存在する。今回、ΔUb-Herpの過剰発現の及ぼすPS複合体の細胞内レベルへの影響を解析したところ、ΔUb-Herp発現によって、PS複合体構成因子であるPS,Pen-2,NCTが顕著に細胞内に蓄積することが明かとなった。この結果は、PS複合体とならない不要な構成因子の分解にHerpがUbを介して関与していることを強く示唆するものであった。また、RNAiによるHerp発現抑制によって、Aβ産生がほぼ50%程度に減少することが明かとなり、HerpがPS複合体形成に関与することがこの点からも強く支持された。 以上の結果を踏まえ、現在、Herpが、通常な生理的条件下やERストレス下で、PS複合体のような膜蛋白複合体形成時に、複合体とならない余分な複合体構成因子の分解に関与しているという仮説をたて、この実験的裏付けを得るための解析をさらにすすめている。
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