研究概要 |
ボスファチジルコリン(PC)の過酸化一次生成物(ハイドロパーオキサイド)と二次生成物[血小板活性化因子(PAF)様脂質の有用な定量法を構築した。これらを用い、銅イオンとインキュベートしたヒト血漿では、短鎖ジカルボン酸(DC)含有PCが最も多く,短鎖ジカルボン酸セミアルデヒド(DCsa)含有PC次いで短鎖モノカルボン酸(MC)含有PCの3種のPAF様脂質が生成することを明らかにした。鉄イオン処理では、MC-PCが多く,次いでDC-PCが検出されたが、DCsa-PCは検出できなかった。 DC-PCやDCsa-PCは25μM以下の濃度でヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖を促進したが,それより高濃度では細胞死を誘導した。 ヒト血漿より部分精製したリゾホスホリパーゼD(lysoPLD)やリコンビナントlysoPLD/autotaxinがPAF様脂質とその脱アシル体(リゾホスファチジルコリン)を細胞増殖活性の強い短鎖アシル含有ホスファチジン酸あるいはリゾホスファチジ酸に変換することを明らかにした。 マイクロプレートリーダーを用いる簡便なlysoPLD検定法を構築し、妊娠中毒症や切迫早産の患者の血清lysoPLD活性が正常妊娠患者血清の値より高いこと、卵巣癌、卵巣膿腫、皮様膿胞,子宮筋腫の患者腹水は高いlysoPLD活性を示すことを明らかにした。 これらの結果より、生体内で酸化ストレスが高まると,生体膜やリポタンパク中のPCが過酸化され,炭素鎖の開裂によるPAF様脂質が生成し、それらや脱アシル体は体液中のlysoPLDにより生理活性を有するホスファチジン酸やリゾホスファチジン酸に転換されうることが明らかとなった。血管内皮傷害のある妊娠中毒症や、女性生殖系の腫瘍を持つ患者の体液は高いlysoPLD活性を持つので、このことが病態の悪性化に関与するのかもしれない。
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