1.亜鉛摂取不足による海馬でのグルタミン酸神経毒性の増大 亜鉛充足率が100%でない人口の割合は世界全体で約50%と報告されており、健康面での亜鉛不足は深刻な問題である。亜鉛摂取不足により学習能が低下し、攻撃性が増大する一方、てんかん発作に対する感受性も増大する。亜鉛摂取不足により海馬ではグルタミン酸神経毒性発現が促進され、神経細胞死が増加することを明らかにした。 2.海馬シナプス神経伝達における亜鉛の役割 記憶・学習を司る海馬に亜鉛が高濃度に存在することから、グルタミン酸シグナルを介した興奮性シナプス神経伝達におけるシナプス小胞亜鉛の役割を検討した。神経終末から放出される亜鉛が同終末に対して負のフィードバックファクターとして働くことにより、シナプス伝達効率を調節し、記憶・学習に関与することを示唆した。 3.新規環境ストレスに対する海馬亜鉛のユニークな応答 生体にストレスが負荷されると、視床下部-脳下垂体-副腎皮質系(HPA系)の活動が亢進するが、海馬はHPA系の負のフィードバック機構に関与する。新規環境下にラットを置いた場合にHPA系が活性化されるとの報告に基づき、新規環境下でのラットの探索行動と海馬亜鉛の役割を検討した。新規環境下における精神的ストレスによって、海馬細胞外でグルタミン酸と亜鉛が相反する動態を示すことがはじめて明らかとなった。海馬神経細胞による亜鉛の取込がグルタミン酸作動性神経の活性化、ならびにラットの探索行動と関係することを示した。
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