研究課題
基盤研究(B)
生体には体内時計が存在し、睡眠・覚醒、体温、心拍数、血圧、ホルモン分泌および肝代謝等多くの生体機能に日周リズムが認められる。細胞動態にも日周リズムが認められるが、癌細胞では正常細胞とは異なる挙動を示す。一方、夜間勤務を行うことで生体リズムが変容し、発癌リスクが高まることが疫学で調査されている。また動物において飼育室の明暗環境を操作することにより腫瘍増殖が変化することから生体リズムと癌との関連が示唆されている。しかし、生体リズムが発癌過程に如何に関与しているのか明らかではない。そこで、本研究では発癌性物質として知られているニトロソアミンの一種Diethylnitrosamine (DEN)による肝発癌モデルラットを対象に、生体リズムを調節する時計遺伝子、DNA修復因子(MPG)およびアポトーシス関連因子(c-myc)の日周リズムが、発癌過程において如何に変容するか検討した。明暗周期(明期:7:00〜19:00)、自由摂食・摂水条件下1週間飼育した5週齢雄性F344 ratを使用した。まず、DEN誘発ラット肝発癌モデル構築のためDEN(80mg/l)を飲水投与した。肝障害の指標であるALT活性は、Control群と比較してDEN投与2週目に活性の上昇が始まり、投与前と比較して投与8週目に有意に上昇し、肝細胞癌が観察された。各種時計遺伝子のmRNA発現量およびタンパク発現量は、Control群と比較してDEN投与により日周リズムの位相や振幅が変容することが明らかとなった。またMPGおよびc-mycのmRNA発現量は、Control群と比較してDEN投与により日周リズムの位相や振幅が変容することが明らかとなった。本実験結果から、肝発癌過程において生体リズムを調節する時計遺伝子、DNA修復因子およびアポトーシス関連因子の日周リズムが、変容することが明らかとなった。これまでに時計遺伝子Per2欠損マウスにおいて発癌リスクが高まるとの報告や、生体リズムが変容することにより腫瘍増殖が促進するなどの報告がある。そのため、時計遺伝子リズムの変容が発癌過程において癌の進行に重要であると考えられる。
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