薬物動態・薬物動力学の理論を応用し、実際の医療現場における処方設計や処方チェック、医薬品適正使用、医薬品情報提供などに役立てるためのコンピュータシステムの構築を目標とした研究を行った。本年度は、腎機能障害患者に対する処方設計支援システム、並びに代謝酵素の誘導・脱誘導に基づく薬物相互作用に対処するためのテーラーメード薬物治療設計支援システムのプロトタイプを完成させた。腎機能障害を有する患者に対しては、その薬物の特性に応じて、薬物の投与量や投与間隔を適正に調節する必要がある。そこで、本邦において市販されているニューキノロン系抗菌薬及びACE阻害薬をさまざまな程度の腎機能を有する被験者に投与した際の体内動態を網羅的に文献収集し、それらを解析した。その結果、腎機能障害患者における体内動態は、それらから推定した「消失における腎寄与率」のパラメータを活用することで予測可能であることが明らかとなった。続いて、腎障害患者における薬物の投与量な投与間隔を調節することで、任意の薬物の動態を、健常者のそれとなるべく近いものにするための計算アルゴリズムを構築し、それをもとにしたコンピュータ支援システムを構築した。代謝酵素の誘導・脱誘導に基づく薬物相互作用に対処するためのテーラーメード薬物治療設計支援システムについては、健康食品であるセント・ジョーンズ・ワートの摂取が、シクロスポリンの体内動態に与える影響について、遡及的に調査を行い、それらを表現するための解毒機能蛋白質の誘導と脱誘導を考慮した薬物動態学的を構築した。さらに、構築したモデルをもとに、当該相互作用を回避するための投与設計を支援するためのコンピュータシステムを構築した。これ以外にも、薬物代謝酵素やトランスポータ、受容体などの遺伝子多型を考慮した投与設計支援システムについて基礎的調査を行った。(776字)
|