研究概要 |
申請者はウサギ脳脈絡叢から新規蛋白質をクローニングし,parchorinと名付けた.この蛋白質は当初,ウサギ胃底腺の刺激時に壁細胞において細胞質から分泌側膜上へ移動してくるリン酸化蛋白質として見い出されたものである.以後の研究によって,parchorinは,壁細胞ばかりでなく,脳脈絡叢choroid plexusをはじめとする水分移動に関わっている細胞特異的に発現していることが明らかとなった。parchorinのC末端部分には細胞内小胞の塩素イオンチャネルと考えられているCLICファミリーと相同性を持つ部分が存在することから、塩素イオンの透過性の制御を介して,水輸送を制御していることが予測された.そこで、parchorinのノックアウトマウス(CLICファミリーのノックアウトマウスとして世界で初めての例)を作成したところ、予想に反して、明瞭なフェノタイプが発現しなかった。特に、最大の発現が見られる壁細胞の機能である酸分泌に全く変化が見られなかった。これは、発生過程においてparchorinの生理機能を補償する他の蛋白質の発現が増加した可能性と、全く予想外の生理機能をもつ可能性を示唆する。そこで、野生型・ノックアウトマウスの胃粘膜及び脈絡叢をGeneChipにより網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、胃粘膜では酸分泌に関与すると思われるいくつかの遺伝子に変化が認められ、脈絡叢においては、種々のイオンチャネルの発現変動が認められた。更に、脈絡叢において、予想外のスプライシングバリアントが存在する可能性が示唆された。また、parchorinが細胞内で相互作用する分子の候補として、PDZドメインをもつ細胞内トラフィック関連蛋白質synteninを同定した。
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