本研究はオリゴデンドログリア前駆細胞(OPC)からオリゴデンドログリアへと分化する過程において特に、FcRγ-->myelin basic protein (MBP)-->myelin-associated glycoproteinの分子機構をあきらかとすることを目的とするものである。平成16年度はマイクロアレイを用いた前駆細胞の遺伝子発現プロファイルの変化を解析した。その成果の一部よりprotein tyrosine poosphataseであるCD45に注目し、CD45ノックアウトマウスにおいて髄鞘形成と関連分子の発現を経時的に解析検討した。その結果、このノックアウトマウスにおいては髄鞘形成が障害されているにもかかわらず、MBPの発現に変化が見られなかったこと、通常生後10日頃に髄鞘形成が起こる正常マウスにおいて、CD45が神経幹細胞からOPCが分化する部位であるsubventricular zoneに陽性であること、などの結果が得られた。更に、in vitroのOPC初代培養系においても、正常マウス胎児由来OPCは培養中に種々の方法でFcRγ刺激により形態的にも生化学的にも分化しするのに対して、CD45ノックアウトマウス胎児由来OPCはFcRγ刺激によって分化を示さなかった。 以上より、CD45のtyrosine phosphatase活性がOPCのFcRγ刺激によるOPC分化のプロセスに重要な役割を果たしていることを示唆する結果がin vivo、in vitroの両面より得られた。なお、髄鞘形成が傷害される疾患である多発性硬化症の複数の家族発生の報告が従来より報告されており、今後さらにOPCの分化に関わる分子メカニズムとそれらの病態への関与において、引き続き検討を進めていきたい。
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