研究概要 |
哺乳動物受精卵では細胞内カルシウムイオンの反復性の増加(Ca^<2+>オシレーション)が起こり,卵活性化(第二減数分裂の再開,第二極体の放出,雌雄前核の形成)を誘発する.Ca^<2+>の増加はイノシトール3リン酸(IP_3)受容体を介する小胞体からのCa^<2+>遊離による.精子或は精子抽出物の卵内注入がCa^<2+>オシレーションを誘起することから,Ca^<2+>オシレーション誘起物質,即ち卵活性化蛋白質(Egg Activating Protein, EAP)が精子細胞質に存在し,精子-卵融合時に卵内に移入すると考えられている.近年,IP_3産生酵素であるホスホリパーゼCの新タイプであるゼータ(PLCζ)がEAPの有力候補とされている.本研究はPLCζの特性を解析すること,PLCζが哺乳類のEAPであるか否かを検証すること,を目的としている.本年度はPLCζの分子構造と機能の関連を解析し,以下の結果を得た.1)バキュロウイルス/Sf9細胞系で合成したPLCζ蛋白質のin vitro酵素活性アッセイで,N端から1,2番目のEFハンドドメイン(EF1,EF2)は酵素活性に強く関与し,EF3は酵素活性のCa^<2+>依存性に関与することを明らかにした.2)C端側にあるC2ドメインはイノシトールリン脂質のうちのPI(3)P,PI(5)Pに親和性があることを見い出した.3)PLCζに蛍光蛋白Venusを結合した蛋白質をコードするRNAをマウス卵に注入し発現したPLCζの特性を解析した.EF1の除去のみでCa^<2+>オシレーション誘起能が消失した.4)発現したPLCζが卵の前核に移行することを前年見い出したが,核移行配列が触媒ドメインX,Yの連結部位にあること,またE1にも核移行に必須なアミノ酸配列があることを明らかにした.5)PLCz欠損精子で受精時の卵活性化阻害を確認するため,PLCζの遺伝子ノックアウトマウスを作成している.そのベクターがようやく出来上がった.
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