研究概要 |
冬眠しているほ乳動物が覚醒する時、数時間以内に30℃もの体温上昇が観察され、大きな熱産生に伴い体内臓器は強い酸化ストレスに曝されると推測される。氷点付近の体温で冬眠する動物の、冬眠行動に関連するエネルギー代謝関連物質を経時的に測定するため、無麻酔動物の細胞外液中の物質を微量透析法(マイクロダイアリシス法)により採取、測定部位の体温と無関係に定量可能な測定システムの試作をほぼ完成した。物質は電気化学計測により定量、これに用いるポリマー被覆電極を試作した結果を報告した(Analyst,2004)。この試作と平行し、冬眠からの覚醒時に大きな熱産生と共に生ずると推定される高度な酸化ストレスに関連する物質の定量、物質・熱の移動媒体である血液動態の変化について検討した。 冬眠中、冬眠からの覚醒中に体内で生ずる生化学反応を媒介する酵素群がタンパク質であることから、脳、心臓、肝臓、非ふるえ熱産生の主要臓器である褐色脂肪組織など体内主要臓器におけるタンパク質の新規合成、遺伝子の新規発現について検討し、冬眠中、覚醒中のそれらの動態を報告した(Jpn J Physiol,2004)。 冬眠中の血液配分と冬眠からの覚醒に伴うその変化は体内各臓器のエネルギー代謝に重要な影響を与えると考え、血液分布の変化を核医学的手法を用いて視覚化した。物質・エネルギーの移動媒体である血液は下半身(下腿、腹部)から、脳と心臓や肺、それを取り巻く主要な熱産生の場である褐色脂肪組織が局在する胸壁を含む胸部と上腹部に一過性に移動する。それが下半身血流の減少と平行して観察され、その後覚醒に伴う体温上昇と平行して下半身への血流配分が徐々に増加する可能性について報告した(Am J Physiol,2005 in press)。 前述のシステムを用いた各種物質の定量と平行し、核磁気共鳴装置を用いた代謝経路についての解析も進めている。
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