研究課題
背景と目的発熱に関わる第1段階の酵素ホスホリパーゼA_2(PLA_2)のタイプは不明である。本研究課題ではこれまでにカルシウム非依存性PLA_2(iPLA_2)が発熱に関わっていることを示す実験結果を得た。すなわちiPLA_2阻害剤のBELはラットにおいてリポ多糖類(LPS)による発熱と脳内PGE_2上昇を抑えた。しかし予想外にもBELは脳血管内皮でのCOX-2発現も抑制した。本年度は(1)BELが脳血管内皮に作用してCOX-2誘導を抑えるか、(2)PLA_2の産物であるアラキドン酸(AA)がCOX-2を誘導するかについて検討した。結果ラットにLPSあるいは生理食塩水を静脈内投与し、60分後にクモ膜下腔の血管を採取した。この血管をBELあるいはDMSO(BELの溶媒)を含む緩衝液で90分間培養し、COX-2発現量をウェスタンブロットにより検討した。その結果BELはCOX-2発現を有意に抑制した。この結果は脳血管におけるCOX-2発現にiPLA_2に産物であるAAが重要な働きをしていることを示唆する。そこでin vivoにおいてAAが発熱とCOX-2誘導を起こすか検討した。AAをラットの脳室に投与すると即時の体温上昇(第1相)と90分後から始まる体温上昇(第2相)が起こった。COX-2特異的阻害剤は第2相の体温上昇のみを抑制した。またAAの脳室内投与はクモ膜下腔の脳血管内皮にCOX-2を誘導した。以上の結果はAAあるいはその代謝産物がCOX-2誘導と発熱を引き起こすことを意味する。これまでAAは単にPGE_2の原材料であり、COX-2の基質であると考えられてきた。しかし本研究によってAAはシグナル分子としてCOX-2を誘導する、という新しい知見が得られた。
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