研究概要 |
AMPキナーゼは、酵母から哺乳動物に至るほとんど全ての細胞に発現するセリン/スレオニン・キナーゼである。AMPキナーゼは細胞内AMP濃度の上昇によって活性化され、グルコース、脂肪、コレステロール代謝の律速酵素をリン酸化して、細胞内の代謝を制御する。しかし近年、筆者らは、AMPキナーゼが単に細胞内のエネルギーレベルによって制御されるだけでなく、レプチンやアディポネクチンのようなホルモンによってもその活性が調節されることを明らかにした。すなわち私どもは、レプチンを動物に投与すると、骨格筋においてAMPキナーゼが活性化し、その作用を通して骨格筋での脂肪酸酸化を促進すること(Minokoshi, Y. et al., Nature 415: 339-343, 2002)、さらに視床下部AMPキナーゼがレプチンなどによる摂食行動の調節にも関与することを発見、報告した(Minokoshi, Y. et al., Nature 428: 569-574, 2004)。そこで本研究では、摂食行動に及ぼす視床下部AMPキナーゼの調節機構をより明らかにする目的で、レンチウイルスを用いて視床下部室傍核に活性型AMPキナーゼを恒常的に発現させた。その結果、このマウスは、慢性的に摂食量が増加し肥満すること、さらに、このマウスの摂食量増加作用は食事中の炭水化物量に依存することがわかった。 これらの研究成果に基づき、平成18年度では、炭水化物の嗜好性を亢進させる分子機構を調べるために、高炭水化物食と高脂肪食を自由に選択でき、それらの摂食量、アクセス回数を24時間解析するシステムを構築した。その結果、対照マウスは高脂肪食を好んで摂取するのに対して、活性型AMPキナーゼを室傍核に発現させたマウスは高炭水化物食を好むことが証明された。さらに、室傍核では脂肪酸酸化関連遺伝子の発現が著しく亢進していることも見出した。現在、室傍核での脂肪酸酸化の亢進が食餌嗜好性にどのような調節作用を営んでいるかを調べている。
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