研究概要 |
心不全の際には交感神経系、レニンアンジオテンシン系、エンドセリンなどの生体内情報伝達物質が代償性に動員され、ノルエピネフリン(NE),アンジオテンシンII(AngII),エンドセリン(ET)などの血中濃度が上昇する。今年度はイヌ心室筋におけるET-1とノルエピネフリン(NE)のクロストークによる収縮性およびCaシグナル制御の細胞内情報伝達機構の詳細を薬理学的に分析した。ウサギ心室筋におけるET-1による収縮調節機構はイヌにおけるそれと顕著に異なるので、ET-1による調節機構の共通性と差違の有無を摘出心室筋標本および単離心室筋細胞を用いて検討した。イヌにおけるET-1とNEのクロストークによる陽性変力作用(PIE)は選択的ET_A受容体遮断薬で効果的に拮抗されるが、ウサギ心室筋におけるのET-1のPIEは従来のET_A遮断薬では拮抗されないことを見いだしていた。今回の実験において新しいET_A受容体TAK-044はウサギ心室筋においてET-1のPIEを遮断することを見いだしたが、ET-3のPIEに対する拮抗と比べると100倍の濃度を必要としその差違の機序は現在のところまだ不明である。ウサギ心室筋におけるPIEはMLCK阻害薬の1-2μM wortmanninn(WMN)で遮断されたが、Ca^<2+>トランジェント(CaT)は有意な抑制を受けず、WMNは選択的にET-1によるCa^<2+>感受性増強を遮断することが示された。一方、Rhoキナーゼ阻害薬のY-27632はCaTが完全に遮断された状態でもPIEを惹起した。これらの実験結果はET-1によるCaT増高とCa^<2+>感受性増強には異なった細胞内機構が関与していることを示唆する。一方、イヌにおけるNEのβ作用とET-1、AngII,α作用(フェニレフリン:PE)とのクロストークの差違を検討した。ET-1とPEのクロストークによるPIEはAngIIのそれよりは顕著であり、共通するシグナル伝達過程とそれぞれの受容体に固有のクロストークが存在することが明確に示された。
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