心筋におけるSTAT3の役割を1)心筋細胞間接着制御、2)心筋細胞保護の観点から検討した。 1)心筋細胞間接着におけるSTAT3の意義 心筋細胞をインターロイキン6関連サイトカインであるLIFで刺激すると、Wnt5aの発現およびN-cadherinの発現が増強され、それに伴い、心筋細胞間の接着が強化された。細胞間接着の増強には、N-cadherinの発現上昇が重要であり、抑制型N-cadherinの遺伝子導入は、LIFによる心筋細胞間接着増強を抑制した。さらに、Wnt5aの発現上昇をアンチセンスを用いて抑制することで、N-cadherinの発現増加、ならびに、心筋細胞間接着増強が抑制された。さらに、Wnt5aの発現増強には、STAT3の活性が必須であることが、抑制型STAT3の遺伝子導入により示された。以上のことから、心筋細胞において、STAT3の活性化は、Wnt5a/cadherinシステムを介して細胞間接着を増強することが明らかになった。 2)心筋細胞保護におけるSTAT3の意義 STAT3による心筋細胞保護作用を検討するために、心筋特異的活性型STAT3トランスジェニックマウスを用いて、虚血再潅流モデルを作製した。その結果、トランスジェニックマウスでは、虚血再潅流傷害に対する抵抗性が認められた。また、トランスジェニックマウスでは、心筋細胞における活性酸素の産生が抑制されるとともに、メタオチオネインの発現上昇が確認された。一方、メタロチオネイン遺伝子欠損マウスでは、STAT3の活性化は、虚血再潅流に対して抵抗性を示さないことを明らかにした。以上のことから、心筋において、STAT3の活性化は、メタロチオネインの発現増強を介して、活性酸素を消去することにより、心筋細胞保護作用を示すことが明らかになった。
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