平成17年度は、心筋組織幹細胞における、IL-6関連サイトカイン/STAT3シグナルの役割に関する研究が進展をみた。心筋より、Sca-1陽性細胞を磁気法により単離培養し、IL-6関連サイトカインのひとつであるleukemia inhibitory factor(LIF)で刺激しその生物学的影響を解析した。その結果、 1)LIF刺激により、心筋組織幹細胞において、STAT3、ERK1/2の活性化が惹起されること 2)LIF刺激は、心筋組織幹細胞において、血管平滑筋細胞のマーカーや、心筋細胞のマーカーの発現には影響を与えないが、血管内皮細胞のマーカー遺伝子の誘導を促すこと 3)血管内皮細胞への分化には、約14日の時間を要し、最終的には全細胞の20〜30%の細胞が血管内皮細胞に分化すること 4)LIFによる心筋組織幹細胞の血管内皮細胞への分化には、STAT3およびERK両方のシグナルが重要であること が明らかになった。 これまで血管形成には、既に組織内に存在している血管内皮細胞が血管形成に参入する血管新生angiogenesisと血管内皮前駆細胞が血管内皮に分化し血管形成に関与する血管発生vasculogenesisのふたつのメカニズムがあると考えられていた。本研究は、組織幹細胞が、心筋組織における発生血管のソースとして機能しうること、また、心筋組織幹細胞の血管内皮への分化にIL-6関連サイトカインが関与している可能性があること、を提案するものである。
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